研修設計の勘どころ
所属するエンジニアリング統括室において、 1 月から新卒研修のエンジニアが対象となる部分の設計担当をしていました。この記事では研修を設計する際に参考にした知識をまとめます。
研修の改善をするために ADDIE モデルを使うと良さそう
ADDIE モデルはインストラクショナルデザインにおいて適用される、研修設計のためのフレームワークです。次の 5 つのフェイズの頭文字をとって ADDIE という名前となっています。
- Analysis
- 分析
- Design
- 研修の全体基礎設計
- Development
- 細かいコンテンツ作り込み
- Implementation
- 研修実施
- Evaluation
- 評価
Evaluation はそれ以外の各フェイズの評価と、研修完了後の評価の 2 つを実施するところがキモです。
研修実施を除くと、通常のシステム開発と同様のプロセスと似通っていると感じるかもしれません。
今回の新卒研修では、 Analysis と Design 、 Evaluation はエンジニアリング統括室で実施しました。 Development と Implementation は各部署の担当者に協力してもらい、全社で新卒メンバーをバックアップする、という体制としています。
ADDIE モデルについてはエンジニアと親和性が高く、使いこなしやすいと思うのですが今回の新卒研修の評価を実施しきれていないので「良さそう」という表記にとどめました。評価については次のセクションをご覧ください。
研修全体の評価には Kirkpatrick モデルを使うと良さそう
Kirkpatrick モデルとはその名の通り、 Dr. Donald L. Kirkpatrick が開発したモデルです。
研修に関わらず、人材開発手法の評価をするために開発されたモデルで、評価に有用な 4 段階の観点を提供するものです。
- Reaction
- 対象者がどの程度の興味を持ったか?
- Learning
- 対象者が内容をどの程度獲得できたか?
- Behavior
- 学んだ内容をどの程度活用できたか?
- Results
- その研修の目的を達成できたか?
Reaction および Learning はその場で確認できるものです。研修中の様子や研修後のアンケートなどで Reaction を、研修後のテストなどで Learning を測定することが可能です。
対して、 Behavior はより長いスパンでの評価が必要となります。 Behavior は数ヶ月後にアンケートやインタビューなどを実施すれば測定できそうです。
Results については目的次第で測定方法や適した測定時期が変化します。今回の新卒研修の目的には「業務遂行に必要な知識とスキルセットのベースを持っている」があります。これは配属後に業務で必要となった知識を抜けもれなく伝えられたか?を問うアンケート / インタビューを実施予定です。
さて、「Kirkpatrick モデルが良さそう」と書いたのはまだ測定が完了していないからです。新卒研修は 6 月末に終了したばかりでまだ Behavior / Result の測定ができていないため、評価方法として Kirkpatrick モデルが適していなかった、という可能性もあります。
さらに Learning については研修準備期間が少なかったため、すべての研修で用意可能とは限らなかったので任意としています。これは来年度の課題です。
個々の研修の評価には ARCS モデルを使うと良い
ARCS モデルはできるだけ学習者のモチベーションを高めるためのモデルです。 John M. Keller によって開発されました。次の 4 つの観点の頭文字をとって ARCS という名前となっているようです。
- Attension
- 学習者の興味をひくような内容か?
- Relevance
- 学習者が内容に対してとっかかりをつかめたか?
- Confidence
- 学習者に成功体験を持ってもらえたか?
- Satisfaction
- 学習者が満足したか?
ARCS モデルは Kirkpatrick モデルの第 1 段階である Reaction を測定するのにちょうどよい観点がまとまっています。そこで各研修終了後にこれらの観点を問うアンケートを新卒メンバーに答えてもらいました。全部で 12 の研修があったため、回答は大変だったと思いますがみなさん答えていただけました。ありがとうございます。
注意点として、これはテストではないため、評価などにはまったく関わりがないことを明示するのが良いでしょう。また、研修開始直前にアンケートを案内し、意識しながら研修を受けてもらう工夫をしました。
もちろん、各部の協力者にこれらの観点を重視しながら研修の作成を依頼しました。 4 月の早い段階で実施した研修のフィードバックもアンケートを通じて得られたため、どういった研修が ARCS モデルの各観点を満たしやすいのか、という情報が講師陣につたわり、後続の研修をより良くする一助になっていたと感じています。
まとめ
研修を設計する機会は早々訪れないかもしれませんが、同様の立場になった方の参考になればと思い、学習、実践したことをまとめてみました。インストラクショナルデザインはいいぞ。